コロナ禍以前からジョブ型雇用・人事について関心が高まってきました。企業としては戦略的に人材を活用することで自社の競争力を高めたい、個人の観点から自分の人生を主体的にかじ取りする自律的なキャリア開発を行い「ライフステージに合わせて自身に合った職務内容の仕事を選びたい」というニーズ、働き方の多様化とともにジョブ型への転換がより加速すると考えられます。
では、ジョブ型雇用・人事を導入し、定義された役割(職務)で従業員が自律的にキャリアアップ、キャリアチェンジを行うためにどのような人財育成体系を設計すればよいのでしょうか。
今回は、ジョブ型雇用で求められる役割(職務)別研修(以下、役割別研修)について解説します。
人財育成における役割別研修の目的と位置付けとは
メンバーシップ型では、異動・配置といったキャリアプランは会社主導で、教育研修の機会も定期的に会社から与えられることがほとんどです。新卒で入社した会社で、10年後に自分がどのポジションにいるのかは想像しづらいですが、いつどのような研修を受けるのかはわかりやすいという利点があります。
一方、ジョブ型では、役割別の採用が基本となり、「キャリアは自分で作るもの」「自身のエンプロイアビリティ(雇用される能力)を高める」といった心構えが求められます。会社と個人がお互いに選び合う関係性が軸となるため、研修プログラムの受講や異動なども自ら希望して選択、決定されるため、従来型の画一的な研修ではなく「役割別のキャリアパスの見える化」と、その支援が人財育成体系における役割別研修のカギになるといえるでしょう。
役割別研修の目的・位置づけは、大きく分けて以下の5つが挙げられます。
- 職務遂行に必須の専門性を高める
役割ごとに求められる知識やスキルは大きく異なるため、役割別研修では、それぞれの職務に特化した専門性を高めることに焦点を当てています。座学形式の講義だけでなく、実習やロールプレイングなどを組み込むことで、実践的なスキルを習得することができます。
- 個々のキャリアパスに合わせた育成が可能
役割別研修では、個々の従業員のキャリアパスや目標に合わせて、必要な知識やスキルを体系的に学習することができます。昇進や異動を想定したキャリアアップ研修や、専門性の高い資格取得を目指す研修など、多様なプログラムを用意することで、個々の成長を支援します。
- 組織全体のスキルアップと業績向上に貢献
役割別研修を通して個々の従業員が専門性を高めることは、組織全体のスキルアップと業績向上に繋がります。各職種の業務が円滑に連携することで、生産性の向上が期待できます。さらに、イノベーション創出や新たなビジネスチャンスの創出にも貢献することができます。
- モチベーション向上とエンゲージメントの促進
自分の専門性を深め、キャリアアップを目指すことができる役割別研修は、従業員のモチベーション向上とエンゲージメント促進に効果を発揮します。研修を通して得られた知識やスキルを活かすことで、仕事への意欲や達成感を得ることができ、組織への貢献意識も高まります。
- 属人化の防止とノウハウの共有
役割別研修では、個々の従業員が培った知識やスキルを共有する機会を設けることで、属人化を防ぎ、組織全体のノウハウの蓄積を図ることができます。マニュアルやナレッジベースの作成などを通じて、組織の知識資産として活用することも可能です。
採用において、魅力的な人財育成体系を構築していることは、企業ブランディングのひとつとして求職者が重視するポイントになっていくことでしょう。
人財育成体系のカリキュラム構成例(役割別研修)
これまでの日本企業は、「役職」や「勤続年数」などで従業員を分け、それらのグループごとに集合型で行う階層別研修が一般的でした。
しかし、役割別研修においては、従業員自身が「学びたい」と思ったときに最適なプログラムを選択できるよう、企業は集合研修以外の役割別プログラムを豊富に用意することが求められます。その際には、知識習得型のeラーニングやオンライン研修を活用すると、より手軽に受けられる研修を増やすことができます。
ここでは、代表的なカリキュラム構成として、以下の4つをご紹介します。
- 選抜型研修
経営幹部も「役割」のひとつとして、戦略的に育成するプログラムを実施します。できるだけ早期に可能性のある若手人材を選抜し、経営陣の近くで経験を積んでいく体制を構築することが大切です。
- キャリアステージ別研修
入社年次や職種とは関係なく、キャリアプランのゴールに到達する過程で、自分に不足していると感じる能力や知識を習得するための研修です。成果を出しきれていない従業員に対して、現在の役割にとらわれないリスキリングを支援する研修やキャリアチェンジを促す研修もこれに含まれます。
企業側は、いくつかのキャリアプランを想定し、外部の研修システムと連携するなどして、プログラムを設定します。
- 企業間留学(人材シェア)を活用した研修
従業員に新しい学びを提供する手法としては、企業間留学も活用できます。留学する従業員は、留学先の企業と研修契約を結び、一定期間働いた後で、送り手の企業に戻ります。グループ企業間を行き来する留学もあれば、小規模に自社内で部署間を期間限定で異動する場合もここに含まれます。
- 大学でのリスキリング支援
社会人大学院、社会人向けの学位プログラムや専門、公開講座などを活用する研修です。夜間や週末、オンラインなど様々な形態があり、場合によっては、休職・復職支援制度を利用して、より専門的に、質の高い教育を受け、キャリアアップを目指すことができます。
人財育成は投資と言われますが、実際に人財育成体系を構築し、すべてを企業内で実施しようとするとコストが発生します。従来の企業がすべて準備するタイプの研修体系では、生産性も悪く、現実的ではありません。
従業員が自律的なキャリア形成を行うためには、自社内で定期的に行う研修、外部サービスを活用する研修をバランスよく配置することが重要です。
役割別研修運営時の人財育成上のポイント
研修運営時のポイントとしては、以前の記事「人材育成の中核となるリーダー研修の重要性 」「人財育成を階層別研修で行おう 」にまとめられていますので、ご参照ください。
人財育成で役割を軸にした研修をより効果的にするポイントとして、
- 役割定義(ジョブディスクリプション、職務定義書)の明確化
当たり前のことですが、定義が明確化されていないと、従業員は計画的にキャリア形成を考えることができません。また、人財育成体系を構築するにあたっても、定義を元に、従業員のニーズを取り入れながら策定することが求められます。
- 自律的なキャリアアップを支援する仕組み
自社の人事制度の仕組みや評価制度、役割の定義などを説明し、理解する場を設け、従業員がそれぞれのキャリアパスやキャリアプランを考える機会を提供します。個々のキャリア目標設定、スキルアップのための学習計画策定などを支援する研修も人財育成体系に盛り込みます。
- メンタリング制度の導入
上司や先輩社員、人財育成担当が個々のキャリア相談に応じる場を設けることで、従業員がキャリアに関する悩みや相談を気軽にできることも重要です。時にはキャリアカウンセラーを配置し、より専門的な視点からアドバイスする環境を整備する場合もあります。
役割別研修は従業員が自律的、主体的に能力開発とキャリアパス形成を支援する大きな役割を担っています。企業は、新人研修、リーダー研修や階層別研修も組み合わせながら、自社の課題や事業内容も考慮した適切な研修プログラムを設計・実施することが重要です
まとめ
いかがでしたか。
ジョブ型雇用・人事や働き方の多様化とともに、人財育成体系も変化が必要な時期に来ています。従来の画一的な、会社から与えられる研修プログラムでは、対応しきれない側面がここ最近、目立つようになりました。
働く個人がライフステージに合わせたキャリアのあり方を求めるようになると、企業としてもこれまでの成功事例として積み上げてきた企業内育成から、積極的に多様な学びを外部から取り入れ、構築していくことが必要です。
新しい人財育成体系が自社の強みとなり、企業の価値向上につながります。採用が難しくなってくる今後を見越して、新しい人財育成体系にアップデートしてみませんか。
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